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  2. 概要

プロジェクトの目的

本プロジェクトは、人間中心設計(HCD:human-centered design)と文化人類学(以下「人類学」と略)の知見を融合させつつ、人工知能(AI: artificial intelligence)を適用したシステムの設計において、人と社会を考慮したシステム設計思想および設計方法のあり方を検討します。

HCDは、情報システムの開発においてユーザーの使いやすさ、わかりやすさなどを考慮して開発することを目的に発展してきました。HCDには複数の方法論がありますが、情報システムのHCDの規格であるISO9241-210:2010が示すプロセスは広く産業界に普及しています。HCDは、特定の目的を達成するために、人間(ユーザー)と機械・システムが一つの系であると見なし、人と機械・システムとの調和のとれたマン・マシンシステム(MMS: man-machine system)を構築することを目指しています。

図1 人間とITの“なじみ”のとれた社会のために必要なHCD及び人類学の視点と特徴

研究方法

本研究は、システム設計(「技術」)を専門とする人間中心設計(HCD)と人間社会の理解(「社会」)を専門とする人類学との対話を通じた、分野横断型の研究プロジェクトとして実施します。研究の体制図を図2に示します。

1. 方法論・⼿法の差異のケーススタディ

医療支援(疾病管理)システムや転職支援サービスなど、システムを活用しつつも人間の経験に基づいて判断等を行いエンドユーザーにサービスを提供する媒介・判断支援系のシステムを対象に、HCDと人類学の双方から同時にフィールドワークを行います。双方の結果の差異から、互いの特長や課題の気づきを得ます。

2. 社会・⼈間とITの調和に基づく設計思想・方法論の検討

AIの技術者も交えた検討会により、情報技術と社会との相補的な関係性についての概念検討を行い、主にユーザー及び社会で捉えるべき状況の範囲、変化及び影響の想定、開発プロセス及びシステム以外に求める要件などの観点から設計思想及び方法論を検討・整理します。

3. 社会・⼈間・ITの調和に関心のある研究者ネットワークの構築

1.2.の活動を通して、AI時代の社会・人間・ITの調和に関心を持つHCD、人類学及び周辺研究領域の研究者のネットワークを構築します。同時に、検討段階から適宜研究成果を発表し、議論を重ねることで本研究へのフィードバックを得ます。

図2 研究の実施体制

研究意義

  1. AIを主な対象としたシステム設計の思想を、工学的な視点ではなく人間や社会・文化の視点から捉え直そうとする点であり、HCDと人類学という異なる学問領域からアプローチするという世界的に見ても類を見ない、野心的な協働/共同研究である点です。
  2. HCDと人類学という、これまで関連がありながらも積極的な研究協力や交流が行われていなかった2つの研究領域が対話する点であり、研究成果は双方の学術的な拡張を促すものになると確信しており、新しい研究対象と研究領域が開ける可能性がある点です。
  3. 人や社会を要件として捉えるHCDの視点と集合的な社会・文化に焦点を当てて人間理解を深める人類学の視点の双方を統合した「多元的HCD」という、一見矛盾する設計思想こそ新しい時代のITシステムの設計のあり方ではないか、との仮説を追求する点です。